【ショートショート】頑なに釣った魚を食べない男の悲しい物語。2008年作-
どうもこんにちは!ツリーバ編集長のヒビヤです。
釣ったお魚は是非おいしい料理にして食べましょう!
と言いながらワタシは荒川のシーバスにおいては基本リリースしている。資源保護や魚が可哀想などと言う優しさではない。
ただただ、夜中に捌くのがめんどくさいからだ。
あとは味の心配である。20年も前だが晴海エリアの運河で釣ったシーバスを大量に持ち帰り、悶絶した覚えがある。もちろん下処理が悪かった可能性は高い。
以前、お台場で釣った小さいシーバスと富津で釣ったシーバス、浦安で釣ったシーバスは大変美味しかったので、荒川のシーバスも食べて見たい気はしている。
が、悶絶の記憶がそれを押しとどめている。誰かワタシの代わりにチャレンジしてくれる強者はいないだろうか。
この物語は頑なに釣った魚を食べない事を選んだ男の悲劇の物語である。
———2008年作ショートショート————
週末の会社帰り、男は以前からずっと気になっていた女を、行きつけのフランス料理屋と言う餌で誘い出す事に成功した。さすがルアーマンである。女を釣るのも得意と言う事か。いや、男の場合はビギナーズラックと言った方が正解だ。もちろん行きつけと言うのは釣るための嘘。つまりこれもルアーマンらしく、疑似餌と言う訳だ。
銀行残高の無い男が支払に使うのは高いロッドにルアー、リールなどを購入するために限度額近くまで使ってしまっているカードだ。人生はプライスレスである。
入念に店の事を調べ、釣りのついでに妹を連れて下調べまでした東京湾を一望できる店だ。当然のようにスムーズにたどり着く事ができた男は予約した自分の名前を名乗り案内されたテーブルに着くなり女に「白ワインでいい?うまいのがあるんだ」と聞くが、実のところ男は白ワインなどほとんど飲んだ事もない。つまり、知ったかぶりである。そもそも酒の味などわからないのだ。
来慣れた風を装うも目線はあちこちをキョロキョロと泳ぎ、店員が来るたびにビクっとする。ゆっくりとディナーのメニューを眺める女とは対象的に男は落ち着きがない。どちらかと言えば女に連れてきてもらったようにしか見えない。
飲み慣れない白ワインをがぶがぶと飲み、前菜が運ばれて来る頃にはすっかりご機嫌になってしまった男。アルコールが手伝って饒舌となり、女にとってはどうでもいいような自分の話を始めてしまった。
「僕はねぇ、ルアーフィッシングが好きで週末になるとこのあたりのポイントをランガンしてるんだよ。ルアーフィッシングと言ってもナイトゲームだからね、ビルの夜景とか、水面に映った灯りを見ながら楽しんでるんだ。」
さて、ランガンとは何だろうか?ナイトゲームとは?ルアーフィッシングと言うのは恐らく釣りの事だろうと察しがついた女は適当に話しを合わせる事にした。
「へぇ。何が釣れるの?アジ?サンマ?」
本当は何が釣れようとどうでもいい。今はおいしいフランス料理に夢中なのだ。
「いや、シーバスって言ってね、関東ではセイゴ、フッコ、スズキって言うふうに名前が変わる出世魚の事なんだ。それを総称してシーバスって言うんだよ。それをルアーって言う小魚の形をした疑似餌で狙うんだ。シーバスは本物の餌だと思って食いついてくる訳。そこから彼らとのダンスが始まるんだ。」
ダンスとは一体なんの事だろう。何をこの男は言っているのか。そもそも釣りの話なんかどうでもいい。フランス料理を楽しみに来たのだ。そう思いながらもさらに話を合わせた。そうしないと連れてきてもらった手前、悪い気がしてしまったのだ。
「へぇ。スズキって高級魚でしょ?釣ったら、自分で捌いて、料理とかしちゃうの?食べるんでしょ?」
「いや、そんな事はしないし、食べないよ。食べた事もない。だって、そんな事をしたら魚がかわいそうだし、海から彼らがいなくなってしまったら、遊んでもらえなくなっちゃうからね。だから無駄な殺生はせずにいつまでも彼らとの戯れを楽しめるように釣っても逃がすの。それをキャッチアンドリリースって言うんだ。まぁ資源の確保とか、自然に優しいとか、そんな偽善的な事は言わないけどね。」
いよいよややこしくなってしまった。このへんでこの話を打ち切りたいところ。
「へぇ。食べないんだ。」
男はこれから起ころうとしている恐ろしい出来事に、まだ気付いてはいなかった。全てはこの計画を建てた時から始まり、すでに終わっていたのだ。答えは神のみぞ知っている事、仕方がない。
「お客様、こちら本日東京湾で採れましたスズキのポワレでございます。」
「ス、ズキ?あ、あ、ありがとう。。。」
こうして男はポリシー通り、釣った「獲物」をキャッチアンドリリースする事に成功したのである。
それでは今日も美味しい魚を食べて、No Tsuri-ba! No Life!
https://tsuri-ba.net/?p=712https://tsuri-ba.net/wp-content/uploads/2016/01/69fc4192df8624b8ab70dea865aa74da_s.jpghttps://tsuri-ba.net/wp-content/uploads/2016/01/69fc4192df8624b8ab70dea865aa74da_s-150x150.jpg釣りTALKキャッチアンドリリース,ショートショート,シーバスどうもこんにちは!ツリーバ編集長のヒビヤです。 釣ったお魚は是非おいしい料理にして食べましょう! と言いながらワタシは荒川のシーバスにおいては基本リリースしている。資源保護や魚が可哀想などと言う優しさではない。 ただただ、夜中に捌くのがめんどくさいからだ。 あとは味の心配である。20年も前だが晴海エリアの運河で釣ったシーバスを大量に持ち帰り、悶絶した覚えがある。もちろん下処理が悪かった可能性は高い。 以前、お台場で釣った小さいシーバスと富津で釣ったシーバス、浦安で釣ったシーバスは大変美味しかったので、荒川のシーバスも食べて見たい気はしている。 が、悶絶の記憶がそれを押しとどめている。誰かワタシの代わりにチャレンジしてくれる強者はいないだろうか。 この物語は頑なに釣った魚を食べない事を選んだ男の悲劇の物語である。 ---------2008年作ショートショート------------ 週末の会社帰り、男は以前からずっと気になっていた女を、行きつけのフランス料理屋と言う餌で誘い出す事に成功した。さすがルアーマンである。女を釣るのも得意と言う事か。いや、男の場合はビギナーズラックと言った方が正解だ。もちろん行きつけと言うのは釣るための嘘。つまりこれもルアーマンらしく、疑似餌と言う訳だ。 銀行残高の無い男が支払に使うのは高いロッドにルアー、リールなどを購入するために限度額近くまで使ってしまっているカードだ。人生はプライスレスである。 入念に店の事を調べ、釣りのついでに妹を連れて下調べまでした東京湾を一望できる店だ。当然のようにスムーズにたどり着く事ができた男は予約した自分の名前を名乗り案内されたテーブルに着くなり女に「白ワインでいい?うまいのがあるんだ」と聞くが、実のところ男は白ワインなどほとんど飲んだ事もない。つまり、知ったかぶりである。そもそも酒の味などわからないのだ。 来慣れた風を装うも目線はあちこちをキョロキョロと泳ぎ、店員が来るたびにビクっとする。ゆっくりとディナーのメニューを眺める女とは対象的に男は落ち着きがない。どちらかと言えば女に連れてきてもらったようにしか見えない。 飲み慣れない白ワインをがぶがぶと飲み、前菜が運ばれて来る頃にはすっかりご機嫌になってしまった男。アルコールが手伝って饒舌となり、女にとってはどうでもいいような自分の話を始めてしまった。 「僕はねぇ、ルアーフィッシングが好きで週末になるとこのあたりのポイントをランガンしてるんだよ。ルアーフィッシングと言ってもナイトゲームだからね、ビルの夜景とか、水面に映った灯りを見ながら楽しんでるんだ。」 さて、ランガンとは何だろうか?ナイトゲームとは?ルアーフィッシングと言うのは恐らく釣りの事だろうと察しがついた女は適当に話しを合わせる事にした。 「へぇ。何が釣れるの?アジ?サンマ?」 本当は何が釣れようとどうでもいい。今はおいしいフランス料理に夢中なのだ。 「いや、シーバスって言ってね、関東ではセイゴ、フッコ、スズキって言うふうに名前が変わる出世魚の事なんだ。それを総称してシーバスって言うんだよ。それをルアーって言う小魚の形をした疑似餌で狙うんだ。シーバスは本物の餌だと思って食いついてくる訳。そこから彼らとのダンスが始まるんだ。」 ダンスとは一体なんの事だろう。何をこの男は言っているのか。そもそも釣りの話なんかどうでもいい。フランス料理を楽しみに来たのだ。そう思いながらもさらに話を合わせた。そうしないと連れてきてもらった手前、悪い気がしてしまったのだ。 「へぇ。スズキって高級魚でしょ?釣ったら、自分で捌いて、料理とかしちゃうの?食べるんでしょ?」 「いや、そんな事はしないし、食べないよ。食べた事もない。だって、そんな事をしたら魚がかわいそうだし、海から彼らがいなくなってしまったら、遊んでもらえなくなっちゃうからね。だから無駄な殺生はせずにいつまでも彼らとの戯れを楽しめるように釣っても逃がすの。それをキャッチアンドリリースって言うんだ。まぁ資源の確保とか、自然に優しいとか、そんな偽善的な事は言わないけどね。」 いよいよややこしくなってしまった。このへんでこの話を打ち切りたいところ。 「へぇ。食べないんだ。」 男はこれから起ころうとしている恐ろしい出来事に、まだ気付いてはいなかった。全てはこの計画を建てた時から始まり、すでに終わっていたのだ。答えは神のみぞ知っている事、仕方がない。 「お客様、こちら本日東京湾で採れましたスズキのポワレでございます。」 「ス、ズキ?あ、あ、ありがとう。。。」 こうして男はポリシー通り、釣った「獲物」をキャッチアンドリリースする事に成功したのである。 それでは今日も美味しい魚を食べて、No Tsuri-ba! No Life!tsuri-ba日比谷 泰宏info@tsuri-ba.netAdministratorツリーバ
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