どうもこんにちは!ツリーバ編集長のヒビヤです。

この釣行時、6月も終わろうとしているが、はて、この季節の早朝の山の中、空気はこんなに暖かかっただろうか。なんともふわりとした暖かい風である。

走り慣れた林道であっても雪深い地域、1シーズン過ぎれば道の状況はまるで変わってしまっている。落石や山肌から露出した大きな岩がずいぶんと目につく。

オフロードタイヤを履いたカブは順調に高度を上げていく。底付きするサスペンションと下打ちするスタンド以外は問題はない。

流石にオフロードバイクのように段差を気にしないわけにもいかず、深いえぐれでは一旦減速する必要がある。それでもカブは力強くグングン林道を駆け上がっていく。

標高1000メートルを超えた高高度による気圧変化で燃調が濃くなりパワーダウンする懸念を持っていたが、気温が低いせいかちょっとした息つき程度で大きな問題はない。順調そのものだ。

いつものオフロードバイクよりずいぶんと揺られ、しばらく走ると目的の入渓地点が見えてきた。

カブを停め藪をかき分け急斜面を降りればそこは凛とした空気に包まれた檜枝岐の沢である。

シーズンオフ中は握ることのなかったテンカラ竿。感覚を取り戻すかのように一つのポイントになんども毛鉤を振り込んで見るが、体は全く忘れていないようだ。

時間はまだ7時前。今日は思う存分たっぷりと沢を楽しむことができる。平日とあって釣り人はいない。ワタシひとりだけ、いやワタシとカブだけの空間だ。

遡行し始めてすぐに20センチほどの綺麗なイワナが毛鉤を食った。普段は20センチを越えれば持ち帰るのだが明日は祖母の四十九日だからと言うわけでもないのだが、なんとなく今日のイワナは全てリリースするつもりである。

すぐまた同じようなイワナが出た。美しく綺麗な模様をしているが、ネイティブにしてはやけに斑点が大きい。もちろん棲む場所や流れによって体色は変わるものだが、これは下流にある養殖場の血統ではないだろうか。むろん養殖とネイティブのハイブリッドも多いとは思うが。

よく釣れるには釣れるのだが、毛鉤を少し沈めてやらないと食わない。しかし谷間を抜ける風が強くなかなか思うように毛鉤を沈められないが、タイミングを見計らってはなんとかかんとか打ち込んでいく。

最初の堰堤の手前で尺上を見つけた。気配を消し、岩に這い蹲り、気づかれぬようそーっと毛鉤を打つ。

立ったまま岩と化ける毛鉤山人さんのようになるにはまだまだ修行が足りないようだ。

沈めて流してやると氷のように透き通った水の中でイワナがスッと移動して毛鉤を食おうとするが、何か違和感を感じているのか食うには至らない。何度目かの打ち込みで今までよりもイワナが大きく動いた。

少し待ってから大きく合わせを入れるとグっとした重みが手に伝わりイワナが竿を曲げ走る。さぁこれからやりとりが始まるぞと思うが早いかすぐに外れてしまった。

さらに遡行し堰堤下のちょっとした深みまで来るとイワナがうじゃうじゃ、と言うほどでもないが結構な数集まっている。

やはり水面では反応しないが流れに乗せて毛鉤を張らず緩めずで自然に沈めてやるとすぐに食ってきたが、またもやすぐに外れてしまう。さらにもう1匹、やはり外れてしまう。

なんとか食ってくれないかとまだこちらに気づかぬイワナの鼻先へ毛鉤を流すと反応はするが、見抜かれたのかすぐに見向きもしなくなってしまった。

諦めて堰堤を高巻きし、寝不足と咳で回らない頭を何とかごまかしながら遡行を続けて行く。雨が少ないせいだろう、水量が少なく渡渉はしやすいが狙い所が今ひとつはっきりとしないが、だからと言ってイワナが全くいないわけではない。イワナがいかにも居心地よさそうな場所で、いかに警戒させずに毛鉤を食わせるかが重要だ。

しばらく遡行した先のなんとなく怪しい落ち込みへ毛鉤を潜らせると道糸の動きが止まった。少し待ってから合わせを叩き込むと竿がぎゅっと大きく曲がる。

上へ下へと走るイワナをなんとか抑えてタモに入ったのは27センチの綺麗な天然イワナ。少し痩せ気味ではあるが、実に美しい。顔はまるで獣のようだ。

こうした源流の釣りで注意しなくてはならないのは、何もクマなどの獣ばかりではない。足元もそうだが、頭上の落石がとても恐ろしいのだ。

これも雪害だろうか、切り立った左岸の崖がオーバーハングし、そこに巨大な岩が顔を覗かせている。あれがもし自分の上に落ちて来たらと考えただけで進むのを拒んでしまう。

まずぶつかる事のない右岸を警戒しながら歩いていると、突然後方で何かが激しくぶつかり合う音がした。

ゴロゴロゴロゴロ!バキャーン!

咄嗟に振り向くと先ほどワタシが警戒していた岩が30メートルはあろうかと言う高さから大規模な落石となって崩落した。

あまりの恐ろしさに鼓動と緊張が高まり、早足で先を急ぐ。すると右手に何か動く気配を感じた。

クマ!!!!

よく見るとそれはマイペースで崖を歩くかわいらしい穴熊であった。

次から次に起こる出来事に何とも言えぬ恐怖を感じ、さらに足を早め遡行して行く。

少しひらけてホッとしたところで再び竿を出すと立て続けに25センチ程度のイワナが釣れた。

どちらも浮かせた毛鉤には反応なく、沈めて道糸の動きでアタリをとったが故、面白いかと聞かれればテンカラとしてはなんとも微妙なところではあるが、今期初のイワナのほとんどが良型であり、大変に満足の行く釣行となった。

先ほどの出来事が恐怖感となり、これを機に退路まで急ぎ退渓し1時間かけて下山する。

落石にやられてやしないかと心配したカブはおとなしく待っていてくれた。

さぁ明日はどこの渓へ行こうかカブよ。

そして午後には帰路へとつかなくてはならない。

帰らねばならぬ寂しさと、渓への期待とが複雑に入り混じる気持ちを焚き火の煙に乗せ、眠気と酔った頭で果てしなくとりとめのない物事を考えるのであった。

それでは今日も、No Tsuri-ba! No Life!

https://tsuri-ba.net/wp-content/uploads/2018/08/D59FDBAF-F218-4D03-B189-3E44CE8460DD.jpeghttps://tsuri-ba.net/wp-content/uploads/2018/08/D59FDBAF-F218-4D03-B189-3E44CE8460DD-150x150.jpegtsuri-ba渓流・源流の釣りイワナ,テンカラ,檜枝岐,毛鉤,渓流,源流どうもこんにちは!ツリーバ編集長のヒビヤです。 この釣行時、6月も終わろうとしているが、はて、この季節の早朝の山の中、空気はこんなに暖かかっただろうか。なんともふわりとした暖かい風である。 走り慣れた林道であっても雪深い地域、1シーズン過ぎれば道の状況はまるで変わってしまっている。落石や山肌から露出した大きな岩がずいぶんと目につく。 オフロードタイヤを履いたカブは順調に高度を上げていく。底付きするサスペンションと下打ちするスタンド以外は問題はない。 流石にオフロードバイクのように段差を気にしないわけにもいかず、深いえぐれでは一旦減速する必要がある。それでもカブは力強くグングン林道を駆け上がっていく。 標高1000メートルを超えた高高度による気圧変化で燃調が濃くなりパワーダウンする懸念を持っていたが、気温が低いせいかちょっとした息つき程度で大きな問題はない。順調そのものだ。 いつものオフロードバイクよりずいぶんと揺られ、しばらく走ると目的の入渓地点が見えてきた。 カブを停め藪をかき分け急斜面を降りればそこは凛とした空気に包まれた檜枝岐の沢である。 シーズンオフ中は握ることのなかったテンカラ竿。感覚を取り戻すかのように一つのポイントになんども毛鉤を振り込んで見るが、体は全く忘れていないようだ。 時間はまだ7時前。今日は思う存分たっぷりと沢を楽しむことができる。平日とあって釣り人はいない。ワタシひとりだけ、いやワタシとカブだけの空間だ。 遡行し始めてすぐに20センチほどの綺麗なイワナが毛鉤を食った。普段は20センチを越えれば持ち帰るのだが明日は祖母の四十九日だからと言うわけでもないのだが、なんとなく今日のイワナは全てリリースするつもりである。 すぐまた同じようなイワナが出た。美しく綺麗な模様をしているが、ネイティブにしてはやけに斑点が大きい。もちろん棲む場所や流れによって体色は変わるものだが、これは下流にある養殖場の血統ではないだろうか。むろん養殖とネイティブのハイブリッドも多いとは思うが。 よく釣れるには釣れるのだが、毛鉤を少し沈めてやらないと食わない。しかし谷間を抜ける風が強くなかなか思うように毛鉤を沈められないが、タイミングを見計らってはなんとかかんとか打ち込んでいく。 最初の堰堤の手前で尺上を見つけた。気配を消し、岩に這い蹲り、気づかれぬようそーっと毛鉤を打つ。 立ったまま岩と化ける毛鉤山人さんのようになるにはまだまだ修行が足りないようだ。 沈めて流してやると氷のように透き通った水の中でイワナがスッと移動して毛鉤を食おうとするが、何か違和感を感じているのか食うには至らない。何度目かの打ち込みで今までよりもイワナが大きく動いた。 少し待ってから大きく合わせを入れるとグっとした重みが手に伝わりイワナが竿を曲げ走る。さぁこれからやりとりが始まるぞと思うが早いかすぐに外れてしまった。 さらに遡行し堰堤下のちょっとした深みまで来るとイワナがうじゃうじゃ、と言うほどでもないが結構な数集まっている。 やはり水面では反応しないが流れに乗せて毛鉤を張らず緩めずで自然に沈めてやるとすぐに食ってきたが、またもやすぐに外れてしまう。さらにもう1匹、やはり外れてしまう。 なんとか食ってくれないかとまだこちらに気づかぬイワナの鼻先へ毛鉤を流すと反応はするが、見抜かれたのかすぐに見向きもしなくなってしまった。 諦めて堰堤を高巻きし、寝不足と咳で回らない頭を何とかごまかしながら遡行を続けて行く。雨が少ないせいだろう、水量が少なく渡渉はしやすいが狙い所が今ひとつはっきりとしないが、だからと言ってイワナが全くいないわけではない。イワナがいかにも居心地よさそうな場所で、いかに警戒させずに毛鉤を食わせるかが重要だ。 しばらく遡行した先のなんとなく怪しい落ち込みへ毛鉤を潜らせると道糸の動きが止まった。少し待ってから合わせを叩き込むと竿がぎゅっと大きく曲がる。 上へ下へと走るイワナをなんとか抑えてタモに入ったのは27センチの綺麗な天然イワナ。少し痩せ気味ではあるが、実に美しい。顔はまるで獣のようだ。 こうした源流の釣りで注意しなくてはならないのは、何もクマなどの獣ばかりではない。足元もそうだが、頭上の落石がとても恐ろしいのだ。 これも雪害だろうか、切り立った左岸の崖がオーバーハングし、そこに巨大な岩が顔を覗かせている。あれがもし自分の上に落ちて来たらと考えただけで進むのを拒んでしまう。 まずぶつかる事のない右岸を警戒しながら歩いていると、突然後方で何かが激しくぶつかり合う音がした。 ゴロゴロゴロゴロ!バキャーン! 咄嗟に振り向くと先ほどワタシが警戒していた岩が30メートルはあろうかと言う高さから大規模な落石となって崩落した。 あまりの恐ろしさに鼓動と緊張が高まり、早足で先を急ぐ。すると右手に何か動く気配を感じた。 クマ!!!! よく見るとそれはマイペースで崖を歩くかわいらしい穴熊であった。 次から次に起こる出来事に何とも言えぬ恐怖を感じ、さらに足を早め遡行して行く。 少しひらけてホッとしたところで再び竿を出すと立て続けに25センチ程度のイワナが釣れた。 どちらも浮かせた毛鉤には反応なく、沈めて道糸の動きでアタリをとったが故、面白いかと聞かれればテンカラとしてはなんとも微妙なところではあるが、今期初のイワナのほとんどが良型であり、大変に満足の行く釣行となった。 先ほどの出来事が恐怖感となり、これを機に退路まで急ぎ退渓し1時間かけて下山する。 落石にやられてやしないかと心配したカブはおとなしく待っていてくれた。 さぁ明日はどこの渓へ行こうかカブよ。 そして午後には帰路へとつかなくてはならない。 帰らねばならぬ寂しさと、渓への期待とが複雑に入り混じる気持ちを焚き火の煙に乗せ、眠気と酔った頭で果てしなくとりとめのない物事を考えるのであった。 それでは今日も、No Tsuri-ba! No Life!手は震え、動悸も止まらない釣りWebフリーマガジン